2022年12月23日

瀬戸海洋生物学セミナーで発表しました


 12月21日にオンラインで開催された第72回瀬戸海洋生物学セミナーで発表しました。このセミナーは京都大学の瀬戸臨海実験所が毎月開催しており、分野・対象生物ともに幅広い海洋生物研究が扱われています。私(高野)は「海産寄生動物の系統分類と進化」と題し、自身が取り組んでいる巻貝、線虫、条虫の分子系統および進化学的研究をお話ししました。約35名の方にお集まりいただき、初めてお目にかかる方とも活発な議論ができて良い機会となりました。お誘いくださりありがとうございました!【高野】

セミナーHP: https://www.seto.kyoto-u.ac.jp/smbl/smbseminar/smbseminar.html

2022年12月4日

一盛和世先生が第29回読売国際協力賞を受賞されました

 当館評議員で長崎大学客員教授の一盛和世先生は、蚊が媒介する寄生虫病、リンパ系フィラリア症対策の専門家です。象皮病や陰嚢水腫を起こすこの病気は「貧困の病気」といわれ、日本は1970年代に制圧しましたが、現在でもアジア・アフリカを中心に約5,100万人以上が罹患しているといわれます(当館2階の展示も参照)。
 一盛先生は、1992〜2014年に世界保健機関(WHO)に勤務し、媒介蚊の研究と対策を推進し、太平洋諸国・諸地域において、さらに全世界に向けてリンパ系フィラリア症制圧計画を策定・実施しました。その結果、これまでに17の国・地域で本症が制圧されました。途上国の貧しい人々を苦しめてきた熱帯病の制圧に道を開いた、一盛先生の国際貢献が高く評価されました。一盛先生、心からお祝い申し上げます。【倉持】

2022年11月27日

令和4年度学芸員実習を実施しました

 去る11月16〜20日、令和4年度学芸員実習を実施しました。コロナ渦によりここ2年間は中止を余儀なくされましたが、本年度はオンライン実習を試みたところ、各地の大学から7名の実習生を迎えることができました。実習プログラムと担当は以下のとおり。

1. バーチャル見学会(1コマ):倉持館長
2. 法人運営の仕組みと目黒寄生虫館の歴史(1コマ):亀谷事務長
3. 館の研究・展示活動と標本・資料の管理(1コマ):巖城研究室長
4. サイエンスコミュニケーター養成講座(6コマ):髙野・佐田研究員(2グループに分かれて研究員に取材し、一般向けのプレゼンテーションを作るプログラム)
5. ウェブミュージアムの作成(6コマ):倉持館長(ジャパンサーチを使って展示資料を検索・収集し、各自が小さな展覧会を作りました)

 実習生の皆さんに感想を伺ったところ、初めて経験することが多く概ね満足していただいたようでした。【倉持】

2022年11月19日

日本貝類学会令和4年度大会で発表しました


 11月12・13日に、日本貝類学会令和4年度大会が沖縄県那覇市で開催され、私(高野)は「クロナマコに寄生するハナゴウナ科腹足類2種における付着部位の差異」という題でポスター発表しました。もともと2020年に沖縄での開催を予定していましたが、新型コロナウイルス感染症のためずっと延期になっていました。国内の学会としては3年ぶりの対面開催でしたが、やはり色々な方と会って話せるのは重要と再認識しました。他方、実行委員の皆様は感染対策など準備が大変だったと思います。この場を借りて感謝申し上げます。
 前日11日には貝類学会若手の会があり、私は世話人として関わりました。今後埋め立てが計画されている浦添市の海岸で貝類相を調べ、その後貸し会議室で情報交換会が行われました。フィールドワークは短い時間でしたが、一人で50以上の科を確認した参加者もおり、多様な貝類が生息する場所でした。埋め立てられてしまうのは惜しいものです。【高野】

2022年10月20日

超深海の生物相調査に参加



 9月30日から10月17日まで、白鳳丸KH-22-8次航海に参加しました。襟裳岬南東沖、千島海溝と日本海溝の境界付近の、水深2000~7500 mの海底にいる生物調査が目的でした。最近の定義では、水深6500 m以深を超深海と呼びます。生物の採取は、主に幅3 mの底引き網を用いて行います。深い場所では、一回の調査に7時間ほどかかりました。
 途中荒天で観測ができない日もありましたが、ナマコに内部寄生する巻貝3種を得ることができました。ほとんど記録のない、大変貴重な標本です。今後の研究が楽しみです。また、一番深い地点で、プラスチックごみが大量に得られたのも印象的でした。こういう場所にたまってしまうのかもしれません。これらも専門家に送られ、研究に生かされる予定です。【高野】



2022年10月16日

日本公衆衛生学会総会に参加しました

シンポジウム:「地方病」制圧の歴史と記憶

 去る10月7〜9日に、山梨県甲府市のYCC県民文化ホール・山梨県立図書館で開催された第81回日本公衆衛生学会総会(学会長:山縣然太朗山梨大学教授)に特別企画参加しました。この企画は山梨大学、感染症アーカイヴス・三菱財団、目黒寄生虫館の共同開催で、山梨県の地方病(日本住血吸虫症)制圧の歴史を振り返り、語り継ぐことをテーマに行われました。【倉持】

2022年10月10日

山口左仲博士の論文原図展示の入れ替え

 当館では、日本の寄生虫分類学の大家である山口左仲博士が残した論文や図版の原稿などの資料を多数保管し、一部を展示室で順次公開しています。
 この度、2階展示室の「山口左仲博士が論文に使った原図」の入れ替えを行い、10月7日から公開しました。今回は1935~1942年に描かれた、鳥類に寄生する吸虫と、哺乳類・爬虫類に寄生する条虫の原図を壁面パネルで展示しています。体長数mにもなる大型の条虫の図はやはり大判で、精巣・卵巣や卵黄腺などの生殖器官が丁寧に描写されています。
 中央アクリルケースでは、山口博士が86年前に新潟のマガンから採集した吸虫 ノトコチルス(Notocotylus parviovatus)のプレパラート標本を展示しました。この寄生虫の図版の原図や、報告された論文別刷りも合わせてご覧ください。【巖城】

2022年9月17日

出身高校で講演

 
 講演依頼をいただき、出身校の高校1年生を対象に「研究者とは?」についてお話してきました。研究者になるにはどのようなキャリアを歩むことになるのか、生物学者は普段何をやっているのか、具体的なことが少しでも伝わっていれば嬉しいです。質問が多く出たので、興味はもってもらえたかと感じました。いつか学会等で「この講演を聞いていた者です」という方が現れるのを楽しみにしています。【高野】

2022年9月15日

国立遺伝学研究所で打合せ

 

 9月9日、静岡県三島市にある国立遺伝学研究所でX線マイクロCT装置を用いた研究の打ち合わせを行いました。私は寄生性の巻貝を扱っていますが、µCTを使うことで、それらの宿主への付着状況や、殻の中の詳細な構造などを非破壊で調べることができます。装置や所内を紹介いただいた後、測定方法や今後の方針について話し合うことができ、大変有意義な時間でした。今後のモチベーションに繋がります。

 余談ですが、所内の別棟には、研究の際に決定したDNAの塩基配列を管理するDNA Data Bank of Japan(DDBJ)という組織があります。私も普段から大変お世話になっています。中を見学とはいきませんでしたが、外からお礼をしてきました。【高野】

2022年9月10日

動物学会大会の関連集会で発表しました


 9月7日、日本動物学会第93回早稲田大会の関連集会「貝と寄生のナチュラル・ヒストリー」に参加しました。貝に寄生するダニや蠕虫から寄生性の貝類までカバーした、大変楽しい集会でした。私(高野)は、「寄生性腹足類の多様性と進化」という題で発表しました。
 当日は生憎の天気でしたが、参加いただいた皆様ありがとうございました。【高野】

2022年8月26日

ビル・ゲイツ氏が来館されました

 去る8月19日、マイクロソフト社の創業者でビル&メリンダ・ゲイツ財団を運営する、ビル・ゲイツ氏が当館に来館されました。ウェブサイト、Gates Notes(https://www.gatesnotes.com)のビデオコンテンツ収録のためのご来館でした。感染症対策に尽力するゲイツ氏ですから、寄生虫学の教育・啓発を目指す当館に目をとめていただいたのでしょう。亀谷事務長(右)と私、倉持(左)とで館内をご案内しました。【倉持】

2022年8月13日

3年ぶりの海外出張 その2:国際軟体動物学会

  日程の後半は、ミュンヘンにて行われた国際軟体動物学会(WCM)に参加しました。パリから約6時間の電車移動...のはずでしたが、途中で乗るはずの特急がキャンセルになり、3時間ほど余計にかかりました。旅にトラブルはつきものです。

 会場はルートヴィヒ・マクシミリアン大学です。多くの国外研究者の方に久々にお目にかかり、情報交換や近況報告を行うなど、充実した5日間でした。私は最終日に「Host exploitation of eulimid gastropods: in situ observation, molecular identification and stable isotope analysis」という題で、ハナゴウナ科の巻貝の宿主利用について、野外調査と遺伝子や安定同位体比の解析によって得られた知見を口頭発表してきました。なお、知人の日本人2名がポスター発表賞を受賞しました。おめでとうございます!【高野】


2022年8月11日

3年ぶりの海外出張 その1:パリ国立自然史博物館

 この2年間、新型コロナウイルス感染症によりいろいろな調査や学会が制限されてきましたが、ついに3年ぶりとなる海外出張に行ってきました。7月26日に出発し、フランスのパリ国立博物館での標本調査と、ドイツのミュンヘンで開催された国際軟体動物学会(World Congress of Malacology)参加をあわせて2週間弱の日程です。悩んだのですが、両国とも日本からの入国に際し隔離やPCRの陰性証明は不要ということで、参加を決意しました。



 日程の前半は、パリ国立自然史博物館で、標本観察および今後の研究に用いるサンプルの選定・借り受けの手続きを行いました。2019年、ニューカレドニアでの生物多様性調査の際に私が採集した標本の整理も兼ねています。約200ロットの標本を見てきました。

 高緯度なので夜は22時頃まで明るく、仕事を終えてから近場にある有名な建造物を見に行きました。写真はノートルダム大聖堂です。

 次の投稿では、参加した学会の様子などをご紹介します。【高野】

2022年7月29日

アレキサンダー・ベイ博士が来館しました

寄生虫の系統図の前でフラッシュ撮影

 7月28日、チャップマン大学(米国カリフォルニア州)准教授のアレキサンダー・ベイ博士が、見学と情報交換のために来館しました。ベイ博士のご専門は歴史学で、特に日本の医学史の研究をされています。最近の論文・著書に、日本における日本住血吸虫症の制圧史の研究があります。 【倉持】

論文(英文)
Total prevention: a history of schistosomiasis in Japan
https://www.cambridge.org/core/journals/medical-history/article/total-prevention-a-history-of-schistosomiasis-in-japan/9F05F64169B6693AF68E96D49E2278E7

著書(和文、共著)
暮らしのなかの健康と疾病 東アジア医療社会史
http://www.utp.or.jp/book/b598914.html

2022年7月17日

滋賀県立大学の土田華鈴さんが来館

 7月15日に、滋賀県立大学の大学院生の土田華鈴さんが、当館所蔵標本の観察のため来館しました。オオサンショウウオなどの寄生虫を研究されている土田さんは、尾崎佳正博士標本コレクションから両生類の吸虫のタイプ標本を観察し、遅くまで熱心に計測や写真撮影を行っていました。 【巖城】

2022年7月13日

旭川医科大学の佐々木瑞希先生と、北里大学の原口麻子さんが来館

 7月10日に、旭川医科大学の佐々木瑞希先生と、北里大学の大学院生の原口麻子さんが来館しました。当館の展示室を観覧後、佐々木先生は福井玉夫博士標本コレクションから、鳥類の鉤頭虫類の標本を観察しました。残念ながら目的のタイプ標本は見つかりませんでしたが、標本には昭和3年(1928年)作製のものもあり、100年近く前に作られた標本を今も観察できることに、佐々木先生も私も改めて感心いたしました。【巖城】

2022年7月9日

千葉県でカエルの寄生虫調査を実施

 



71日に、千葉県で寄生虫調査のために、カエル採集を行いました。当日は、猛暑のため熱中症に気を付けながら行動しました。調査中はカエルを好んで捕食するヤマカガシという毒ヘビが多数見られ、カエルの生息密度が高いことがうかがわれました。しかし、猛暑のためか、カエルは4個体しか採れませんでした。一方で、寄生虫については、線虫4種、吸虫1種、鉤頭虫1種が確認できました。
下の写真はニホンアカガエルを吐き出したヤマカガシです。ヤマカガシは写真撮影後リリースしました。毒ヘビですので、ヘビの扱いに習熟していない方は、触らないでください。


今後も同地点で調査を続け、寄生の季節変化や宿主特異性に関するデータを取得する予定です。【佐田】

2022年7月7日

野口英世記念感染症ミュージアムの開館式典に出席

 7月1日に、福島県猪苗代町に開設された「野口英世記念感染症ミュージアム」の開館式典に出席しました。この博物館は、野口英世記念館に隣接する至誠館の1階を改修して開設されました。近代医学の始まりや、様々な病原体を紹介し、さらにペストや新型コロナウイルス感染症など9つの感染症が詳しく解説されています。寄生虫学関係では、日本住血吸虫症・マラリア・動物由来感染症が取り上げられました。当館からはアニサキスや赤痢アメーバなどの画像を提供し協力しています。
 感染症ミュージアムは2日から正式オープンしています。野口英世記念館と合わせてご訪問ください。 【巖城】

野口英世記念感染症ミュージアム
https://www.noguchihideyo.or.jp/idm/

2022年6月29日

沖縄本島で寄生貝調査

 


 6月13日から18日にかけて、沖縄本島で寄生貝の生態調査を行いました。梅雨真っ盛りでしたが前半は好天に恵まれ、しっかりデータを得ることができました。
 リーフでの調査では、ゴマフヒトデに寄生するヒトデナカセなどが採集できました。また雨の日には、移動中いろいろな陸貝に出会うことができました。下の写真はアオミオカタニシです。葉っぱに似て淡い緑色をしていますが、これは軟体(身)の色で、殻は半透明で無色です。【高野】



2022年6月12日

特別展「神出鬼没・変幻自在 芽殖孤虫に迫る」開催(6/12~)

 感染事例が少なく、致死率が高く、感染経路は不明で成虫も見つかっていないという、長年謎に包まれてきた寄生虫 ― 芽殖孤虫。昨年、最新のゲノム解析によって実体の一部が解明されました。
 その研究成果は当館刊行物「むしはむしでもはらのむし通信」第201号でご紹介していますが、実物の標本と資料をご覧いただくために、この特別展を企画しました。
 合わせて隣接の情報コーナーでは「"DNA解析"って実際に何をやっているの?」と題して、上記の研究にも用いられた「DNA解析」などの手法について、ポスターとタッチパネルで紹介しています。 【巖城】

期間 : 2022年6月12日(日)~(終了日未定)
場所 : 1階 特別展示スペース

https://www.kiseichu.org/single-post/20220610

2022年6月1日

日本寄生虫学会大会に参加しました

 5月28〜29日に帯広市のとかちプラザで開かれた、第91回日本寄生虫学会大会に参加しました。昨年同様にハイブリッド開催で、私(倉持)は現地参加、ほかはオンライン参加しました。当館からの発表は以下のとおりでした。

髙野・佐田研究員:アニサキス属とシュードテラノバ属(線形動物門:アニサキス科)はそれぞれ非単系統群である(口頭発表)

小川名誉館長・佐田研究員ほか:飼育中のイトウに寄生していた単生類Discocotyleについて(ポスター発表)

倉持:黒潮流域のオキアナゴから得られたPseudosteringophorus属二生吸虫の未記載種(ポスター発表)

 また、青山学院大学の飯島 渉教授主催のシンポジウム「リンパ系フィラリア症の征圧は海を越えて:歴史学から見る長崎県、愛媛県、済州島(韓国)の例(原題は英語)」ではコメンテーターを務め、さらに、当館で今年1月から実施した特別展「済州島の象皮病」も会場内でご披露しました。【倉持】



2022年5月22日

奄美大島と喜界島で野外調査

 


 5月16日から20日にかけて、奄美大島と喜界島で寄生貝の調査を行いました。この日程は大潮にあたり、一年のうち昼間に最も潮が引く期間の一つでした。
 今回は、標本の採集と、巻貝が宿主のどの辺に付着しているのかについてデータを採ることを目的としました。梅雨に入っていることもあり日程の前半は雨風に打たれましたが、後半は良い天気に恵まれ、クモヒトデに寄生する種などを得ました。この貝は長い吻(口)を宿主体内に差し込んで付着しているのですが、その吻はどこまで伸びているのだろうか?というのが最近の興味です。【高野】

2022年3月26日

白鳳丸による調査航海に参加


  3月6日から17日にかけて実施された深海調査(白鳳丸KH-22-5次航海)に参加しました。オミクロン株の蔓延を受け、複数回のPCR検査のほか、出港地で5日間自主隔離を行ってからの乗船でした。
 今回は、使用する機器への習熟を主目的とした航海でした。秋に次の航海が控えていますが、その際に活躍する予定の、これまであまり使用経験のない機器を用いた生物採集の流れ、問題点などを把握しました。無事にサンプルも得られましたので、今後研究に生かしていこうと思います。
 駿河湾での調査中には、綺麗な富士山を拝むことができました。【高野】